January2006 NIKKEI DESIGN 23
工業デザインと機構設計の双方を手がけ、3次元CAD教育にも携わる小川氏は、設計の3次元化による日本の物作り環境の変化と、その中で工業デザイナーに要求されるスキルについて、様々な例を挙げて解説した。

日経デザイン2006年1月号の記事より転載

オガワデザインシステム代表取締役
小川英爾氏

 日本の製造業が一人勝ちをしていた2次元設計の時代には、現場が優先されていました。設計部門の作る2次元図面には不備な点がたくさんあり、現場の職人が生産技術でそれをカバーしていました。技術やノウハウのほとんどは、現場に残り、設計部門には上かってきません。
 3次元設計の時代になると、設計部門のノウハウで製造が決まる部分か増えました。試作品が減少し、生産体制のメンテナンスフリー化が進んだことで.、コストの安い国でも生産できるようになり、製造業の海外流出が始まりました。コンピューターの発達によって、水平分業の物作りが起こり、職人のノウハウを生かした日本だけのシステムが崩壊してしまったのです。
 では、日本の物作りをどうしたらよいでしよう、私は、トップダウン設計、つまり、細かい部分まですべて設計で詰めていくやり方よりも、製造部門の現場の情報を、データとして設計部門に渡す方法を確立することで、日本の新しい製造業のやりかたができてくると思います。
設計優先ではなく、製造にも発言権があるようなシステムを作りあげていかないと、日本の製造業は成り立ちません。このシステムで安い物を作るのは無理かありますから、高級品で、細部にまで神経か行き届き、高性能を追求する製品を作っていかなくてはなりません。
 製造現場で3次元データを扱えるようにスキルアッブした職人と、製造現場か

ら上がってきたデータを生かせる設計部門が協力して、一貫したデータを作る。デザイナーも否応なしにこのコンカレントエンジニアリングの中に組み込まれていくでしょう。
 デザイナーにとって一番重要なことは、やはり感性だと思います、しかし、これからの時代にそれを生かすには、ふたつのスキルアップが必要だと思います。ひとつは、感性という物を確実に3次元のデータにしていく技術です。いくらきれいな曲線を作っても、それが3次元のデータにならないと意味がありません。
 アイデアの部分では、今でも手書きの鉛筆スケッチを使います.、そのスケッチを、3次元のデータにきちん・と変換できるかどうかが勝負です。CGソフトでは比較的簡単にできるのですか、CGソフトのデータは、設計や試作に流用できません。自分の描いたスケッチをCGやillustratorの三面レンダリングではなく、RPマシンやNC加工機でも使える高精度な3次元データにする技術が必要です。
 もうひとつは、設計部門とのスムーズな連携のための、ソリッドモデラーヘの対応です。デザイン部門で曲面の多い物を作るには、サーフェースモデラーが向いています。ただ、これを設計部門にボンと持って行くと、拒否反応が起きてしまいます。ソリッドCADにサーフェースデータを取り込んでも、修正か効かない

ので、設計部門が勝手に書き換えてしまうことがあります、こうするとデザインが変わってしまいます。そこで、ソリッドCADに取り込んだサーフェースを、修正可能なデータに変換するといった工夫が必要になります。形によっては、ソリッドの方が作りやすい物もありますので、いかにサーフェースモデラーとソリッドモデラーを使い分けるかが重要です。
 ソリッドのデータには曖昧な部分がありませんので、RPの出力結果も良好です。また、干渉チェックやシェル化、強度解析などソリッドならではの便利な機能が利用できます、今のものづくりは、中国や東南アジアなど、生面コストの安いところに勝たなけれぱなりません・、性能的には上でもコストの高い日本の製品を、お客さんに受け入れてもらうための、ひとつの拠り所がデザインだと思います。
 私は、デザインに理解のない設計屋に対しては、「なぜこの品物を日本で作るのか?」と尋ねます。日本で作るメリットとは何か、デザインを軽視したら、日本で作るメリットはないじやないかと説得します。こうした問いかけをすることで、デザインの大切さを理解してもらうことができます。これからの製品開発にあたっては、改めて「なぜ日本製でなければならないか」という問題を最初に議論するのが良いのではないでしょうか?